東京地方裁判所 昭和62年(ワ)17070号 判決 1988年7月29日
原告
遠藤紀子
被告
島八洲雄
ほか一名
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して金一四六万二九二五円及びこれに対する昭和六一年一二月一〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その七を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは連帯して原告に対し金五四八万七三九〇円及びこれに対する昭和六一年一二月一〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件事故の発生
(一) 日時 昭和六一年一二月一〇日
(二) 場所 東京都千代田区三崎町二丁目八番一三号
(三) 加害者 普通乗用車(練馬五五か一九二四号、以下「加害車」という。)
右運転者 被告島八洲雄(以下「被告島」という。)右同乗者 原告
(四) 被害車 普通貨物車(練馬四五ひ九七七号、以下「被害車」という。)
右運転者 大橋敬一
(五) 態様 原告が加害車の後部座席にタクシーの顧客として同乗して進行中、被告島は前記場所付近の交差点の信号が赤であるのに、前方不注意のため信号を見落として漫然と進行し、赤信号で停車していた被害車に追突した。
2 責任原因
(一) 被告島は、前方不注意により赤信号を見落とした過失により本件事故を惹起させたものであるから、民法七〇九条により本件事故によつて原告が受けた損害を賠償する義務がある。
(二) 被告株式会社グリーンキヤブ(以下「被告会社」という。)は、被告島をタクシー運転手として雇用し、タクシー業務に従事させていたもので、本件事故は、被告島が被告会社のためタクシー業務に従事中に起こした事故であるから、自賠法三条により本件事故によつて原告が受けた損害を賠償する義務がある。
3 損害
(一) 治療費 一五万〇七七〇円
原告は、本件事故のために頸椎捻挫、前額部挫創等の傷害を受け、事故当日の昭和六一年一二月一〇日から現在までの間に、実通院日数二六日間にわたつて通院加療を受け治療費を支出したが、その内金一五万〇七七〇円を請求する。
(二) 通院交通費 一万一七六〇円
事故当日の昭和六一年一二月一〇日から昭和六二年一一月一二日までに通院のために要した交通費のうち、金一万一七六〇円を請求する。
(三) 休業損害 一〇四万六三七〇円
原告は、フリーライターの他モデル業を兼業しているが、それらの月額報酬は、本件事故当時の原告の年齢である三六歳女子に該当する賃金センサスの全年齢平均給与額である一八万七五〇〇円を下らず、原告は本件事故により昭和六一年一二月一〇日から昭和六二年五月三一日まで一七三日間休業を余儀なくされたので、一〇四万六三七〇円の休業損害を被つた。
(四) 後遺障害の逸失利益 三九万八九一三円
原告は、フリーライターとして取材する際、取材中の原告の写真を雑誌に掲載し、原稿料の他にモデル料収入を得ていた。しかるに、本件事故による後記の後遺障害によりモデルとしての写真掲載が不可能になり、モデル料収入が得られなくなつた。
ところで原告は、少なくとも四〇歳になるまでは前記のようにモデルを兼ねた取材が可能であつたと考えられるから、右後遺障害により原告の月額報酬一八万七五〇〇円の年額に労働能力喪失率五%を乗じ、労働能力喪失期間四年に対応するライプニツツ係数三・五四五九を乗じた金三九万八九一三円の損害を受けた。
(五) 慰謝料 三七四万円
(1) 通院慰謝料 一三四万円
原告は、本件事故により、事故当日から現在に至るまで一年以上通院中であるので、精神的苦痛に対する慰謝料は一三四万円が相当である。
(2) 後遺障害慰謝料 二四〇万円
原告は未婚の女性であり、本件事故によつて顔面線状瘢痕及び両下腿瘢痕による醜形の後遺症が残つたもので、これは、自賠法施行令二条後遺障害別等級表一二級に該当し、今後の就職に不利益であるばかりでなく、将来の結婚に多大に影響する。従つて、右後遺症により現在及び将来に被つていく精神的苦痛に対する慰謝料は二四〇万円が相当である。
(六) 衣服 四万円
本件事故の際、原告の着用していた衣服は血痕が洗浄できず、使用不能となつた。
(七) 弁護士費用 四六万二四九〇円
原告は、本訴の提起、追行を原告訴訟代理人らに委任し、着手金として一〇万円を支払い、報酬として請求金額の三割相当の金額を支払うことを約束したのでその内金四六万二四九〇円を請求する。
4 よつて、原告は被告らに対し連帯して金五四八万七三九〇円及びこれに対する本件事故日である昭和六一年一二月一〇日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
本件事故態様は争わない。同乗者は、訴外加藤洋二と原告の二名であつた。損害中衣服は否認し、その余は不知。
三 抗弁
損害の填補
昭和六二年二月一七日までの治療費九万一一五五円、薬代一万五九九〇円、クリーニング代四三五〇円、昭和六二年一月一三日までの交通費六八〇〇円が支払済である他、原告は、昭和六三年四月一五日、次のとおり自賠責保険金の支払を受けた。
1 治療費 一〇万六九七〇円
2 交通費 九九六〇円
3 傷害の慰謝料 一〇万四四〇〇円
4 後遺障害の慰謝料 二一七万円
四 抗弁に対する認否
昭和六二年二月一七日までの治療費九万一一五五円の支払を受けたことは否認する。治療費として支払を受けた金額は五万五一〇五円である。その余の填補分は認める。
第三証拠
本件記録中証拠関係目録記載のとおり。
理由
一 本件事故の態様については被告らにおいて争わず、成立に争いのない甲第一号証ないし第三号証、第五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二一号証、弁論の全趣旨を総合すれば、原告が請求原因第1項で主張のとおり本件事故の発生した事実を認めることができ、また、原告が本件事故により前額部挫創、頸椎捻挫、頭部・肩打撲等の傷害を負つたことが認められ、更に、本件事故は、被告島が、加害車を運転するに際し、前方を注視してその進路の安全を確認しながら進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然進行させた過失により、赤信号で停車していた被害車に加害車を追突させたことによるものであり、被告会社は、被告島をタクシー運転手として雇用し、タクシー業務に従事させていたもので、本件事故は被告島が被告会社のためタクシー業務に従事中に起こしたものであることが認められるから、被告島は民法七〇九条により、被告会社は自賠法三条により、いずれも本件事故によつて原告が受けた損害を連帯して賠償する責任がある。
二 甲第二号証、第三号証、第五号証、第二一号証、成立に争いのない甲第四号証、第六号証ないし第一四号証、第一六号証、原告本人の写真であることに争いのない甲第一九号証の一ないし三、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一七号証の一ないし三、第一八号証の一ないし三、第二〇号証ないし第二七号証、弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、東京警察病院において、前額部挫創に対する創処理施行、頸椎捻挫等の治療を受け、東京労災病院においても外傷性頸椎症に対する治療を受け、結局、本件事故により次の損害を被つたことが認められる。
1 治療費 一五万〇七七〇円
原告は、本件事故のため前記傷害を負い、事故当日の昭和六一年一二月一〇日から東京警察病院等で治療を受け、治療費一五万〇七七〇円を支出したことが認められる。
2 通院交通費 一万一七六〇円
原告は、右治療に赴くため、昭和六一年一二月一〇日から昭和六二年一一月一二日までに交通費一万一七六〇円を支出したことが認められる。
3 休業損害 一〇四万六三七〇円
原告はフリーライター業、モデル業をしていて、原告の年齢である三六歳女子に該当する賃金センサス年齢別平均給与額一八万七五〇〇円相当の収入を得ていたことを認めることができ、本件事故により、原告は、昭和六一年一二月一〇日から昭和六二年五月三一日までの間休業を余儀なくされたことを認めることができるから、一〇四万六三七〇円の休業損害が認められる。
4 逸失利益 一五万九三〇〇円
原告が外貌醜状の後遺症により自賠法施行令二条後遺障害別等級表一二級一四号を認定されたことについては当事者間に争いがないところ、原告は、右醜状によるモデル業の失職を主張し、被告らは影響がない旨主張する。
原告はモデル業をして収入を得ていたことが認められるところ、右の醜状障害は顔面部の一・〇センチ、二・五センチ、〇・九センチの線状瘢痕であつて、化粧等によりめだたなくできるとはいえ、モデル業の積極的活動は阻害され、また、フリーライター業においてもモデル業を兼ねる利点を十分生かせず、将来の収入の減少を余儀なくされていることが認められるから、原告の活躍分野、その形態、モデル業の原告収入に寄与する程度等からして、その労働能力喪失率は年二%、原告は今後四年間稼動可能と考えられるので、その逸失利益としては一五万九三〇〇円が認められる。
5 慰謝料 二五〇万円
本件事故による通院慰謝料及び後遺障害慰謝料については、醜状痕の部位、程度等、原告の性別、年齢、職業、婚姻の有無、通院回数、期間等諸般の事情を考慮して、二五〇万円をもつて原告の被つた精神的苦痛を慰謝するのが相当と認められる。
6 衣服代 〇円(但し、クリーニング代として四三五〇円)
原告は、本件事故の際着用していた衣服は血痕が洗浄できず、使用不能となつた旨その損害を主張し、被告らはこれを否認する。
被告らが原告に対し、クリーニング代四三五〇円を支払つたことについては当事者間に争いがなく、右金員をもつてしたクリーニングでも血痕が洗浄できず、右衣服が使用にたえないものであつた事実を認めるに足る証拠はないので、原告の主張は採用できない。
三 被告らが原告に対し、薬代一万五九九〇円、クリーニング代四三五〇円、昭和六二年一月一三日までの交通費六八〇〇円が支払済であるほか、原告が昭和六三年四月一五日、自賠責保険金の支払として治療費一〇万六九七〇円、交通費九九六〇円、傷害の慰謝料一〇万四四〇〇円、後遺障害の慰謝料二一七万円を受けたことについては当事者間に争いはない。
被告らは、昭和六二年二月一七日までの治療費九万一一五五円を原告に支払つた旨主張し、被告は五万五一〇五円である旨主張するところ、成立に争いのない乙第二号証、第四号証によれば、被告らは原告に対し、右治療費として三万六〇五〇円及び五万五一〇五円の合計九万一一五五円を支払つたことが認められる。
四 以上によれば、原告が有した三八六万八二〇〇円(但し、クリーニング代四三五〇円は除く。)の損害賠償請求権のうち、被告らは二五〇万五二七五円を支払済(但し、クリーニング代四三五〇円を除く。)であるから、結局、原告は被告らに対し、一三六万二九二五円の損害賠償請求権を有していることが認められ、原告が本件訴訟代理人らに本訴の追行を委任したことは弁論の全趣旨により明らかであるので、本件事件の難易、審理経過、認容額等に鑑み、本件事故と相当因果関係を有するものとして請求しうる弁護士費用の額は一〇万円とするのが相当である。
五 よつて、原告は被告らに対し、連帯して一四六万二九二五円及びこれに対する本件事故日である昭和六一年一二月一〇日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める権利があるので、本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 原田卓)